sensational diving
第一章 感傷的なゆめ


いつの間にか、雨は止んでいた。辺りは恐ろしい程静まりかえっている。
死体の横に置かれたメモには、思いのほか小ぎれいな書体で、こう書かれていた。
「僕を止めてください」
これでピンときた。なぜだろう?わからない。でも、確信した。
ああ、犯人は私のよく知ってる、あいつだ・・・と。


冗談半分、真面目半分で聞いてみた。
「あの殺人の犯人って、あんたじゃない?」と。
退屈そうにマンガ本を読んでいたあいつは、ちらりとこっちを見ると、聞き返した。
「何でそう思う?」
「別に。死体の横にあったメモの内容がね、それっぽかったから」
あいつはため息まじりに、何て書いてあった、と聞きながら、読みかけのマンガに目線を落とす。
興味なさそうに振舞ってるのがバレバレだ。相変わらずわかりやすい奴。
メモの内容を教えると、あいつは笑った。
”止めてくれ”って一体何を止めて欲しいんだよ、と。
明らかに動揺の光を秘めた瞳。つくづく不器用な奴だ。


あいつの本名は、時田仁という。
でも、私はその名前を呼んだことがない。いつも「ねえ」「あのさ」「あんたさー」でごまかす。
別に悪態ついてるわけじゃない。ただ単に照れくさいだけだ。
実際あいつも、私のことを、本名”玲香”で呼んだことがない。
時田仁って人間は、照れ屋で強がりで不器用で、はっきり言って世間的に見ればダメな奴だ。
恐らく向こうも私のことをそう思ってる。違いない。
そもそも、今私達がこうして一緒にいる理由は、お互いの不器用さにあるといっていいかもしれない。


私が家出したのは2年前の秋・・・だから私が15歳、高1の時だ。
何につけても器用な人間なら、きっと家出なんてしないだろう。
家出した理由なんて忘れてしまった。何か、ものすごいくだらないことだったような気がする。
私はビルの陰に座り込んでいた。ただでさえ人通りの少ない通りで、しかもビルの陰だ。
好都合なことに、ほとんど誰にも見つからなかった。
これからどうしたものか・・・とりあえず家には帰れない。大見得張って家出した以上、のこのこ帰るなんてことはできない。
我ながら、変な所だけプライドが高いと思った。全く嫌になる。
もちろん学校にも行かなかった。親や警察に見つかったら面倒なので、夜中コンビニと銭湯に行く以外はどこへも行かなかった。
何もすることがないから、必然的に先のことをいろいろと考えた。
とりあえず今はコンビニ・銭湯通いの野宿生活で何とかなる。でも、こんな生活いつまで続けられるかわからない。
警察に補導されるのが先か、体を壊して病院送りが先か、泣いて家に帰るか、それとも野垂れ死ぬか。
いずれにしてもあまり面白くない展開だ。考えれば考えるほど途方に暮れた。
もう考えるのはやめよう・・・そう思った時だった。


私は、自称・拾い癖のある男に拾われた。
多少怪しいとは思ったが、そいつについていく以外道はなかった。
そいつの名前は、松岡博といった。よくある名前だ。よくある名前の、変わった奴。
松岡は見た目によらず金持ちで、高層ビルをまるごと1つ持っていた。
私はそのビルの9階に置いてもらった。接客用の部屋の1つらしい、ホテルの1室みたいな所だ。
不便をすることは全くなかった。大抵の物は何でも揃っていた。
人間、都合のよすぎる展開には、多少なりとも疑念を抱くものだ。
(神様からの贈り物??でなきゃ、外国にでも売り飛ばされるんじゃないだろうか。)
しばらくは疑っていた。実際、松岡にも聞いてみた。
「何で他人の私にここまでしてくれるのか」と。
あいつは話した。あいつにも私と同じ位の年の娘がいて、その子もつまらない理由で家を出て行ってしまったこと。その子はもう二度と帰ってこなかったこと。しばらくして、近所の公園から白骨死体が見つかったこと。
だから君みたいなのは放っとけなかった、とあいつは苦笑した。
”私はあんたの娘じゃないし、期待にそえるような人間でもない。ただのつまんない家出娘だ。”
何となく罪悪感を感じた。聞かなきゃよかった、と思った。


仁はそれからしばらくして、私と同じ経由でここにやって来た。


「何で俺が犯人なんだよ」
ぶすっとした顔で、仁が呟いた。
「何?まだそんなこと気にしてんの?」
「気にしちゃいないけどさ。」思いっきり気にしてる、その声は。
機嫌を損ねると面倒なので、適当に機嫌をとる。
「ごめんって。あんなの冗談だよ」
「ならいいけど。」
(単純な奴。)
私は心の中で苦笑した。あの日の松岡のように。
仁がマンガ本のページをめくる。とりあえず私も、読みかけだった本を開いた。


また、雨の降る音がする。

pinna
2002年11月10日(日) 20時57分10秒 公開
■この作品の著作権はpinnaさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初小説です。
拙い文章ですが、これでも一生懸命やってます・・・。文字の1つ1つに命をこめつつ。(死)

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あら!?良いにしたのに3点になってる!?・・・連続投稿すみません^^; 5 ゆめ ■2002-11-12 17:36:42 m163001.ap.plala.or.jp
読みました!凄いです!!絵も上手くて、小説も書けるなんてっ!!これからも読みに来ます☆ 3 ゆめ ■2002-11-12 17:35:35 m163001.ap.plala.or.jp
初めまして!とっても格好良くてミステリアスな小説ですね。先がすごく気になります〜!!ではでは、これからも頑張ってください! 5 ZNK ■2002-11-10 22:28:05 116.pool3.ipcyokohama.att.ne.jp
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