輪廻~風読み編~ 1 明日への旅立ち |
明日は、何処にある? 明日は、何故存在する? 「教えてあげましょうか・・・?」 ・・・貴方は・・・ -ダレ?ー とても、長い長い廊下。床も壁も何もかもが真っ白すぎて、窓から見える青い空が際立ってしまう。 此処は、とても哀しい場所ね。色がないもの。 私の服も、真っ白。歳の割に子供に見えちゃうから、かえって似合いすぎる。 肌も、服も、足に合わないスリッパも、全部真っ白なのに、腰まである長い髪と光がない目は対照的に真っ黒。唇はまるで血をそのまま塗ったみたいに真っ赤・・・。 それが私。つまらない私。 窓が私の姿を反射して、真っ青な空に捕らえてしまう。 私に色は宿るのだろうか・・・? 無意識に、両手に抱きしめたテディベアを力強く握ってしまった。 空虚な脳の中に、スリッパの音が遠くから聞こえる。それから、私を呼ぶ声・・・。 「輪廻ちゃん!!」 あ・・・青空みたいによく透き通るこの声は・・・明だ。 どうやら私を探していたらしく、息切れをしている。しばらく下を向いていたが、息が整ってくると、私の肩に大きな手をおいた。 「・・・明チャン、せんせぇが病院の中走っててどうすんの。」 明は眉間にシワを寄せ、また綺麗な声を私に聞かせる。 「まったく、輪廻ちゃんが病室にいなくてビックリしたんだよ。さ、戻ろう。」 肩においていた手を私に差し伸べ、微笑を返した。金に染めた髪が、光に反射されて眩しい。真っ白い白衣を着てる筈なのに、この人が着ると色がついたように鮮やかになる。 「・・・しょうがないなぁ・・・。」 だから私はこいつをそこそこ気に入っている。 こいつは「仲居 明」。私の主治医。 金髪に青い瞳で、背が高くてかっこいいらしい。日本人と英国人のハーフで、よく少女漫画に出てきそうな感じ。 なんか、カラカイがいがあって面白い。何より色がついている。 私と正反対だ。 明は私を本当の妹みたいに思ってくれてる。無論、私も、お兄ちゃんが帰ってきてくれた感じがして嬉しい。 こいつが主治医でホントに良かった。そこら辺のセクハラじじいより良いからね。 私が病室を勝手に出るのは日課で、そのたんびに明が迎えに来る。手を繋いで病室に帰るのもその日課だ。 そしてまた、頭の中にヒソヒソ声が聞こえてきた。 「・・・あの子、ホントは13歳らしいよ。」 「え?10歳くらいにしか見えないのに!?」 「そ、しかも不気味な病気にかかってるんだって。実際的に不思議な子だし・・・。」 「人間離れしてるからねー・・・。」 「・・・輪廻ちゃん?」 明が私の顔を覗き込む。心配しているらしく、目は少し潤んでいた。 「・・・大丈夫だよ、明ちゃん、・・・行こ。」 これも日常茶飯事。もう慣れてしまった。 あぁ、今日もいつもの通り終わるのね。 それでいて、少しずつ、少しずつ・・・ 私の時計が止まろうとしている・・・。 一人残された個室に、私は一人、立っていた。明が個室から出て行った音が、微かに耳の奥で繰り返される。それから、倒れこむように私はベットに寝転んだ。 ・・・はっきり言って此処の病室は嫌い。味気がないし・・・。 それに此処は、昼になると「いろいろ」いるから・・・。 普通、夜に「いろいろ」出てくるんだけど、ここは何故か反対で、昼に出てくる。 まぁ、見ようと思わなければ見ないけど。 それにしても此処はホントに暇。小さいテレビに真白な床、壁。ベットも何もかもが真っ白なこの世界・・・。昼はイラつくほど光を反射するのに、夜になると影になって、昼間の光は消えうせてしまう。 私は「そーゆう」時、ふと、空を見るのが日課になってしまった。 今日も茶色い木で出来た座椅子に座り、窓の手すりに肘をついて青空を見上げる。 今日も今日で終わってしまう。 私に「明日」など永久にない。 なのに私の体は刻々と「明日」を奪われていく。 死ぬのを待つ毎日なんて、暇すぎだ。 だから、早く無くなってしまえばいいのに。 魂も、体も、赤黒い器官も、真っ赤な血も・・・ 全て、「骨の髄」まで無くなってしまえ。 ドクッ 「・・・!?」 いきなり息が詰まってきた。心臓に穴が開いたような痛みが体中に走る。 ・・・あぁ・・・「発作」だ・・・。 首から何かが上がってきたのかと思うと、すぐに口から吐き出された。私の唇のような液体・・・血だ。 それに混ざって、また何かが吐き出された。 それは魚の目玉みたいな、「目玉」。私の方をじっ、と見つめている。 「・・・うっ!!」 なんでだろう・・・。いつも早く治まる嘔吐がいつまでも続く。その度に、数え切れない目玉が私を見据える。 何故、今日は治まらないのだろう・・・。 あぁ、そうか。私の体は「呪い」によって侵されているんだった・・・。 はやく、はやく、私を「死」へ導いて・・・。 フワッ 窓から、風が吹き込んできた。すると、「サラ・・・」と音がして、嘔吐も、目玉も、床を汚していた血も吹き飛んだ。何故か体の調子がよく、呪いをかけられる前のような感じだ。私は少し、自分の前方を見据えてみた。 ・・・なんと、ウサギが空を飛んでいるではないか!! しかも服きてるし・・・。懐中時計が胸の辺りで光っていて、まるで「不思議の国のアリス」の時計ウサギみたいだ。 それにしても・・・まるで青空みたいに綺麗な色・・・。どんなウサギなのかしら。 そんなこと考えていたら、ウサギが私の方に目を向けた。 「・・・え・・・?」 そのウサギが私の方に向かって飛んでくる。そして私の目の前で停止した。 「あなたは・・・「ウルド」様ではありませんか!?探していたのですよ!?」 「は・・・?」 ウサギはワケも分からないことを言うと、私の手を強い力で引っ張りあげた。しかし、急に目の色が変わり、手をするすると放した。 「・・・呪いにかけられてますね・・・。この「ニオイ」は嗅いだ事がある・・・。」 私はウサギの空色の目を見、何故か全身が震え上がった。私はこの眼を知っている。 なにか・・・なにか大切な思い出を見せられているような・・・。 「あ・・・あんたは・・・何?」 ウサギは一時停止し、微笑を返した。私に軽くお辞儀をする。 「私は・・・「風読み」と申します。この度は、王様直々に、姫の世話役、護衛を任されました。よろしくお願いします。」 「・・・は?」 なんかよくわかんねー・・・。 「姫って・・・私のこと・・・?」 「はい、そうです。此処とは違う世界、・・・まぁ、異世界とも言うんですけども、「華神大陸」の「ローズイズシティ」の王が、あなたをお気に召したのです。王の命により、あなたを迎えに来ました。」 ・・・はぁ・・・よく分からないけど・・・。 まったく・・・ゆっくり死にたいって時に・・・。 「悪いけど。私はメンどくて行きたくないわ。それに私はゆっくり死にたいの。王様にはごめんなさいって伝えておいて。」 風読みの表情は少し固くなったが、すぐに微笑み、懐中時計を私の掌に乗せた。 「分かりました。では、もし気が向いたり、大陸に行きたい場合は、これを鳴らしてくださいませ。私がすぐに迎えに来ますから。それでは。」 そう言い残した後、風読みは粉のように消えた。 ・・・一体なんだったんだろうか・・・。 ・・・まぁ、いいか。此処には、「明」という居場所があるし・・・。 そして今日も、今日が始まる。 私は今日もいつもの通り、明に挨拶しに診察所に行った。しかし、部屋では違う医者と話しているらしかった。こういう場合は邪魔しないように外で待ってよう。 どんな話をしているのか、少し聞いてみようか。 「・・・どうしてあの子の主治医になったんだね?見ていて辛いだろうに・・・。」 「辛くはありませんよ。ただ、私の妹が、輪廻ちゃんと同じ病気にかかって、死んでしまったんです。だから、妹みたいな子がいたら、真っ先に助けてあげようと思っていたのです。」 ・・・え? ・・・明は、妹がいたの? 明の、妹が? それじゃあ、私は、その代わり? ・・・息が苦しい・・・。 ・・・やっぱり私の居場所は、何処にもないの・・・? この真っ白で真っ黒い世界なんか、壊れちゃえ・・・。 チリーン 廊下で鈴の音がした。その音に気づき、明はドアを開ける。 其処には、赤いリボンに通された、小さな鈴が落ちてあった。 この鈴は、明が、輪廻が病院内で迷わないように最初にあげた物だった。 「・・・輪廻ちゃん?」 ハァ ハァ・・・ いつもの過呼吸だ。辛い・・・苦しい・・・。 私は病室の窓を開けて、空を眺めた。青い空がやけに美しい。 ・・・そういえばあのウサギも、こんな色の目してたなー・・・。 今なら間に合うかもしれない。居場所を作れるのかもしれない。 ・・・なんでだろう・・・この気持ち・・・。 あの、ウサギに会いたい。 あのふわふわな手が、懐かしく感じてしまう。 それは、何処かで会ったような・・・。 私はポケットに入れていた懐中時計を左手に持ち、ベルボタンを押した。 綺麗で小さな音で、「チリリリリ・・・」と音がする。 ・・・これは、「超音波」だ。 普通の人には聞こえない音を、私は感じ取ることが出来る。 すると、瞬時に昨日のウサギが現れた。また空気が綺麗になったみたいで、過呼吸が治まる。 「・・・準備はいいのですか・・・?」 「・・・うん・・・。」 ウサギの手をとると、背中から真っ白な羽が現れた。 「うわ・・・何コレ。」 「これはあなたに元からあった「力」です。さ、行きましょう。」 私は窓のてすりに足を乗せた。その時、病室のドアが開く音がした。 「輪廻ちゃん!!」 明・・・明の声だ・・・。 私はふと、眼を後ろに移す。手すりに乗っている白い羽が生えた私を見て、目をまん丸に開いていた。私は何故か、明に笑みを投げかける。 「バイバイ。明。」 途端、目の前が真っ暗になった・・・。 耳に、時計の音が聞こえるー・・・。 1 明日への旅立ち |
ミイ
http://www.geocities.jp/mizuho051028/index.html 2006年10月29日(日) 21時41分12秒 公開 ■この作品の著作権はミイさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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