†エルムの樹†-第九話-{花の冠} |
―たった一人でも強く咲く そんな花に憧れた― ++花の冠++ 『もう少し人を信頼してはどうですか?』 ホウプの中で、アルセイデスの言葉が繰り返し繰り返し木霊となって響いていた。 心の中では人を信じて生きていたつもりなのに、いつの間にか誰に対しても警戒してしまう自分がいたことはホウプも気づいていた。 それを分かっていながら、どうすることも出来なかった自分が情けなくて腹立たしくてしょうがない。 心を落ち着けようと、目を瞑り森の空気を胸いっぱいに吸い込む。 しばらくして目を開くと、リオとシエルに振り返り、自分の鞄のポケットから道しるべを取り出して針の方向を確認する。 「・・行こっか」 どこかさっきより落ち着いた表情のホウプに、シエルはホッとして頷いた。 針の指す方へと直進していくと、まもなく森を抜けることができた。 森へ入った時には遠くに微かに見えた“ルアガート”の街は、そこからは見えず、辺りにもだいぶ違う風景が広がっていた。 “ルアガート”から森までの道のりは、ほとんど草など生えていない土っぽい道路だったが、今三人の目の前にある道の両側には、森を出て数メートル先から段々と濃くなりはじめる緑のじゅうたんが広がっていて、そこには所々に白い小さな花が咲いていた。 「わぁ~」 その光景を見て、瞳を輝かせたのはシエルただ一人。 すぐに駆け出していってしまう。 ホウプとリオは、それをただぼう然と見ているだけだった。 風が吹くと草のじゅうたんがまるで波の様に揺れる。 しばらくそこら辺をぴょんぴょん飛び回っていたシエルだったが、急に座り込んで何かをしだした。 それから少し経つと、シエルは手を振って二人を呼んだ。 ホウプとリオがシエルの側に着くと、シエルはリオの頭に何かをのせた。 「じゃーん!どぅ?上手いでしょ~?リオとっても似合ってるよw」 何かと思えば、花で器用に作られた冠だった。 しばらくぼーっとしていたリオだったが、シエルを見つめて小さな声で言った。 「ありがとう」 「どういたしましてwそうだ!作り方教えてあげるよ!」 「・・いいの?」 「もちろん!見ててね」 シエルはそう言うと、リオの手を引っ張ってその場に座らせた。 そして、何本か花を摘むと器用に重ねたりねじったりして、あっという間に小さな花輪を見事に作って見せた。 リオも、見様見まねで花を重ねたりねじったりしている。 そんな二人のやり取りを何気なく見ていたホウプだったが、いつの間にか普通の女の子同士のやり取りに見えてくるのが不思議だった。 「ホウプー!!」 しばらくすると、いつの間にか遠くへ行ってしまっていたシエルが大声でホウプを呼んだ。 手招きされて駆け寄ってくと、シエルがホウプの目の前に一つの花輪を差し出した。 「これすごいでしょ?リオが作ったんだよ~。リオってば初めてなのにあたしより上手なの」 シエルは苦笑しながら言った。 ホウプはその花輪を受け取ると近くで見てみる。 花のいい香がする。 ぐるっと丁寧に編まれたその花輪は、何も知らないホウプにもとても綺麗で上手なことはよくわかった。 「リオってこう言うの得意なんだ?」 そう言いながら、ふとリオの頭の上にのるシエル作の花輪に目が行く。 「本当にシエルより上手なんだな」 「あっ、なんか今のかなり酷い~。あたしだって、ホウプよりはだいぶ上手だと思うけど~?」 シエルは、人さし指を立てて『だいぶ』の所を強調させて言う。 そんなシエルが面白くて、ホウプはプッと吹き出した。 笑いを堪えようとしながらも、腹を抱えて苦しそうに笑っていた。 「なんで笑ってんの~」 シエルもそう言いながらも一緒に笑っていた。 そんな二人をリオは不思議そうに見ていたが、段々と表情が和らぎ、見方によっては笑っている感じも見せた。 「あ~、リオまで笑うことないじゃん」 笑いながらそう言ったシエルの言葉に、ホウプはまさかと思ってリオを見た。 それは本当に少し微笑んでいるくらいのものだったが、ホウプはなんだか心の奥底からほっとした気分になった。 『あの子にはちゃんとした心があります』 アルセイデスの言葉が、再び甦ってくる。 ホウプは始めそんなことはないと思っていたが、今でははっきりと確信することが出来た。 “リオには心がある” ―たとえ枯れてしまっても いつかは再び花が咲く― -第九話 終わり- |
璃々
2004年03月15日(月) 18時38分32秒 公開 ■この作品の著作権は璃々さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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リオに少しの変化が・・・それにしてもリオの過去が気になりますねぇ。 さて、次を読むか(笑) | 3点 | 考浅 | ■2004-03-28 12:11:59 | proxy-155.medias.ne.jp |
合計 | 3点 |
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