絆 〜第1章〜 1節
あんなことがあっても、レイスは全く気にしてないようだった。
あの後、レイスはまたブランデーを飲み始めた。
今度は周りから、恐怖で怯えた視線が感じられた。
さすがのレイスも気分を悪くしたのか、そのブランデーを飲み干すと、すぐに酒場を出て行った。
そして、普段より少し早足で宿屋に向かった。
宿屋に着くと、先程のことを知らない男達の視線が、またもや私たちの方に向けられた。
正確に言うと、レイスにだけど。
レイスは、さきほどと同じように無視をしようとした。
しかし、その動きが止まった。
どうしたんだろう?と思い、レイスの目線の先を見た。
そこには、黒い髪を後ろで結んだ優男が座っていた。
どういう趣味なのか、足元まである真っ黒のローブを着ていた。
レイスってこんな優男に興味があるの?
私はそう思った。
しかし、レイスの顔を見て、それは180度違うとわかった。
レイスの顔には、わずかながらも驚きの表情があった。
男はまだこちらには気づかなかったが、周りの男達の視線を感じ、辺りを見渡した。
そして、レイスを見つけると笑いかけてきた。
横の椅子を引いたのは、ここに座れ。という意味だろうけど、レイスは徹底的に無視をして、部屋を頼みに行こうとした。
そのとき、レイスの腕が何者かにつかまれた。
またさっきみたいな馬鹿男かと思ったけど、今度はそんなに弱くはなかった。
レイスはナイフで相手の手を切ろうとするけど、防がれる。
次に、男の腹に肘をめり込ませようとするけど、これも防がれる。
そのとき、私は見た。
レイスが笑っている。
私がレイスと会ってから初めて見た、子供のような無邪気な笑顔を。
でも、それもほんの数瞬だった。
また、いつもの表情になった。
笑った時の方がよかったのにな…。
私は、その男の方を見た。
見覚えがある。
たしか、レイスの部屋にあった写真に写ってあった。
その時もレイスは、先ほどの笑顔だった。

「久しぶりね…」
「お前が村を出て行って以来だからな…」
「あなた、なぜこんなところにいるの?」
「俺も村を出たんだ」
「え?本当なの?」
「ああ。」
「なぜ?あなたもなにかされたの?」
「いや、自分の意思で出てきたんだ」
「そう…」
「こんなくらい話なんてやめて、久しぶりに会ったんだ、飲もう」
「ええ、飲みましょう」
「あんたさっきも飲んだじゃない」
「!?だれだ!?」

しまった…、つい。

「どうかしたの?」

レイスは、私を軽くたたきながら言った。

「今なにか女の声が聞こえたような…」
「気のせいだわ。私には何も聞こえなかったもの」
「空耳かな?」
「きっとそうよ」
「旅で疲れてるんだな。きっと」

そう言いつつも男は、周りを見ていた。

「あそこで飲みましょ。」

レイスは、空いた席を指差しながら言った。

「そうだな。つもる話もあることだし」
「先に座っていて。あなた何飲むの?」
「そうだな…ウイスキーを頼んでくれ」
「わかったわ」

そういえば、あの男の名前なんていうんだろ?
レイスに聞いてみよ。

(ねえ、レイス)
(何?)
(あの男誰なの?)
(私が生まれた村に住んでいた私のお兄さんみたいな人で、ディズっていうの)
(ふ〜ん)
(さっきみたいに声ださないでよ)
(は〜い)

と、そのときちょうど声をかけられた。

「お客さん、何にしますか?」
「ウイスキーを二つ頂戴」
「コレ、けっこうきついけど、大丈夫なのか?」
「心配ありがとう、でも大丈夫よ。こう見えてもお酒は強いから」
「あいよ」
「ありがと」

なんか、いつものレイスと雰囲気が違う。
あの男―ディズと会えたのがそんなにうれしいことなのかな?
ま、いいことだけどね。
でも、そんないい気分を壊す馬鹿な奴がいるのよね。
そいつらは、ディズの周りを取り囲んでいた。
そして、一斉に襲いかかる。
私は、レイスが助けに行くものと思っていた。
でも、そうじゃなかった。
レイスはそこを動かなかった。
その理由は、すぐにわかった。
男達が次々とその場にたおれていったから。
床を見ると、赤い水たまりができていた。
襲われたはずのディズは、無傷。
その手には、身長と同じぐらいの大剣が軽々と持たれていた。

「相変わらず、強いのね」
「お前もな」
「ここの席、汚れたわね」
「そうだな…向こうに座るか?」
「部屋に行きましょ」
「俺の?」
「私の」

ディズは、しばらくレイスの言葉の意味がわからなかったのか、ポケーッとしていた。
でも、その意味を頭が理解したのか、顔が徐々に赤くなっていくのがわかった。

「ほ、本気か?」
「冗談よ、冗談。そこら辺で飲みましょ」
「じょ、冗談だよな…ビックリした…」

安心したような言い方だったが、ちょっとしょんぼりしているように見えたのは、私だけかな?
ロキ
2003年06月15日(日) 00時43分58秒 公開
■この作品の著作権はロキさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
第1章の1節が終わりました。
この調子だと、かなり長くなるかと思われ。

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おおーカコイイ。次を楽しみにしてます。 3 バンプオブチキン ■2003-06-15 17:16:18 219.40.56.34
早速使っていただけたんですね!次も楽しみにしています! 5 S&AのA ■2003-06-15 09:03:56 203.139.244.119
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