ココロの散歩。-1- |
その日は、曇りだった。 どんよりとした雲が、僕の心を覆い隠す。 いっそのこと、雨が降ればいいのに、そう思う。 雨は、嫌いじゃない。 雨に打たれずぶ濡れになりながら帰った後に入る風呂が、とても暖かいから。 でも今のこの天気は、いつまでたっても今より重くなる事にはなりそうになかった。 その日、僕の親友が自殺した。 「なぁ、お前って北島{キタジマ}の親友だろ?」 「え…なんだよ、藪から棒に」 ぼーっと机に座っていた科木{シナノキ}は友人からいきなり声をかけられ、はっと我に帰った。 まだHRが始まる前だ。人気は少ない。つーかこの教室、人いない。科木とその友人以外は。 「あいつさぁ…ここ最近、何か変な事言ってなかったか?」 「え?……んにゃ、別に何も無かったと思うけど」 「そうなのか……」 「北島がどうかした?」 科木がそう言うと、その友人、玖雅崎{クガザキ}はなんとも言い難い表情になった。 そして、こう続ける。 「あいつ……今日死んだ」 「は?」 不覚にも妙な声を出してしまった。いや、だってそうだろう。 朝、まだ眠い頭をもう少し休ませておくべく教室で寝てたら、いきなり親友が死んだなんて。冗談にしてはタチが悪すぎる。 しかしその玖雅崎の表情は、冗談とは思えないモノを含んでいた。 …ちょっと待て。いいか、しばし待て。つーか待て。むしろ待ってくれ。 今、コイツは何て言った? 今、僕は何て聞いた? 「なぁ……今」 「詳しい事は知らない。ただ、そういう話があるんだ」 科木の言葉を遮り、玖雅崎はそう言った。まるで、聞かれる事を拒むように。答える事を拒むように。 「嘘…だろ…」 「……」 科木の声がみるみるうちにトーンダウンしていく。対して、玖雅崎はそれに何も言わない。 「嘘…だよな……」 「……」 玖雅崎は何も言わない。それは、彼がその話の信憑性を雄弁に語っていた。 北島駈也{キタジマ カリヤ}はその人生を終わらせた。 唐突な訃報。そしてそれはHR、田村先生がそれを語る事で事実と立証された。 自殺、だった。彼はそう、自ら命を絶ったのだ。 科木は目の前が暗くなったように感じた。なんだよ、それ……。 そんな事、僕に一言だって言わなかったじゃないか…。なんでだよ…。 「………先生からは以上だ」 そう言い残し、田村先生は去った。心なしか、先生も顔色が悪い。 当たり前か、と科木は思う。自分の教え子が自殺したんだ、そのショックは大きいだろうな。 そして、僕も…。 結局、僕の精神は2時間以上持たず、3時間目には早退した。 帰ってきてベッドに横になり、思う。 何でアイツは自殺したんだろう…。 アイツは…北島はそんな事するような奴には見えなかったのに。 部活は美術部。僕は美術部じゃないからわからないが、それなりに楽しんでいたらしい。 成績もそんなに悪くなかった。決して良いわけじゃなかったが。 友達は多いほうじゃないと思うが、いないわけでもない。 家庭も、兄弟が2人いたって言っていた。訊ねて行った時も家庭崩壊してそうな雰囲気ではなかった。 何が、アイツを追い込んだんだろう。全部そうかもしれないし、全部違うかもしれない。 遺書とかは先生の話でも友達の間でも聞いていない。 もしあったら、なんて書いてあるんだろう。 あいつとは中学2年からの付き合いだった。同じ高校に進学し、全部で3年と半分近く友達だった。 「なんなんだよ………」 科木は1人ごちる。頭がぼーっとして考えられない。朝の眠気からくるものではない。もっと深い、感情。 悔しさとか、情けなさとか、色々なものが混ざりあってそれを搾ったのが、今の科木の心を覆い尽くしていた。 なんとか心を楽しくしようと、この感情を払おうと、別の事を色々考えてはみた。 でも今の科木の心は、いつまでたってもこれ以上軽くなる事にはなりそうになかった。 その日、僕の親友が自殺した。 -続く- |
明無悠乃
2003年06月08日(日) 00時59分30秒 公開 ■この作品の著作権は明無悠乃さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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