オアシス〜運命と宿命の間〜vol。2



 笠岡高校は小高い山の上に建てられており、当然行きつくまでに長い坂を登らなければならない。マラソン大会で難所となるこの坂は、生徒たちからは歓迎されてはいない。
友人達と楽しく話しながら登りつつも、口には出さないだけで皆この坂を疎ましく思っている。
「だからさぁ、何でこの坂キツイうえに長いんだよ。」
 友達といつも通り登校していた工堂陽司(くどうようじ)は誰もが心の中で思いつつも忘れてしまっている台詞を口にした。
 身長は少々高めで少し薄茶がかった髪、見た目は見た目はさわやかスポーツマンで初対面の人なら当然運動部に入っていると思うが、彼は『科学兼化学研究部』の部長である。ちなみにクラスは一年B組である。
「設計者の趣味だろ?」
 陽司のぼやきに応えたのは隣にいた神田真砂(かんだまさご)。いまどき珍しく長髪を後ろで束ねている。だが、その髪がさらっとしたストレートなせいかうっとおしい印象は全くない。眼鏡の奥には涼しい切れ長の瞳。
 言葉からも分かるように彼は陽司のぼやきにまじめに応えてはいない。証拠に彼は手にした本の文面に目を走らせていた。本のタイトルは『太陽系の惑星』。彼も『科学兼化学研究部』の部員で一年C組に在籍している。
「それは有り得るな…。」
 陽司が本気で真砂の言葉に反応する。
「なわけないだろ…。」
 真砂とは陽司を挟んで反対側にいた少年、天見大樹(あまみだいき)は密やかにツッコんだ。彼は三人の中では一番身長が低い。というより全国的に見ても同じ年代の平均より低い。そのうえ童顔なことが大樹のコンプレックスになっている。
 言うまでもないが、二人とは同部で、クラスは真砂と一緒である。
「てかさぁ、真砂はなんでさっきからその本読んでんの?」
「もう、みんな実験続きで飽きてきたろうし、もう初夏だからな。天体観測とかも良いかと思ってね。」
「あぁ、それ良いかもな。今日のミーティングで提案してくれるだろ?」
「そのつもりだよ。」
 陽司が尋ねると真砂はうなずく。
「おっはよー。」
 三人は後ろから不意に声をかけられてふりむく。
 走ってきたのは東条一海(とうじょうかずみ)。色素の薄い肌と髪をしているが、別に病弱というわけではない。
「今日ってミーティングで良いんだよな?」
この問いから分かるように彼も同部である。クラスは一年D組だ。
「おはよう。あってるよ。珍しいね、いつも遅刻寸前の一海が早いなんてさ。」
 大樹が笑顔で応える。
 と、一海は何言ってんの、と腕時計の文字盤を大樹に示す。
「集合時刻まであと三分だぜ?お前らがのんびりしてるからミーティングじゃないのかと思ったぞ。」
「げ、やばいって。早くしないと佑生がキレるよ!」
 陽司がいち早く走り出す。
 と、真砂も本を抱えると追うように走り出す。
「待ってよ!」
 大樹と一海も慌ててそれに続いた。



     ―――――――ホシが四つ動き出す―――――――


 時を遡ること数分前。


「ねぇ、みんなはまだ来ないのかしら。」
 理科室の適当な椅子に腰掛けたまま、高原紅実(たかはらくみ)は問いかけた。
 天然のゆるくウェーブが掛かった髪はポニーテールにしてまとめてある。少し気の強い印象の上がった目。
 顔を上げて友人の金井美姫(かないみき)を探す。
 美姫はというと窓際に置かれた金魚鉢の前に立ち、赤出目金――通称デメちゃん――に餌をあげている。
「ねえって、聞いてるの?」
 紅実がもう一度強い口調で呼ぶとやっと美姫は振り向いた。
「あ、ごめん。みんなはきっとすぐ来るわ。」
 ちょっとだけ首をかしげた格好で美姫はこたえた。長いストレートの髪は少しだけまとめてバレッタでとめてある。学年で一番美人と言われるほどの容姿は普段から一緒にいる紅実であっても一瞬目を見張るほどだ。
 科学とかに無縁に見える二人だが、やはり『科学兼化学研究部』の部員で一年E組に在籍している仲良しコンビだ。
「でも、もうすぐ時間になっちゃうんだけど。」
「佑生と天里と泉はすぐ来るわよ。問題は男子四人ね。」
「それは言えてるわね。」
 紅実はそううなずいて立ち上がった。
 教卓の上に出しっぱなしになっているフラスコ―――前日にどこかのクラスが使ったと思われる―――をしまおうと戸棚に手を掛ける、が、鍵が掛かっているためか開かない。
「そっか、鍵貰ってくるの忘れてたわ。」
 呟いて美姫の方に向き直る。
「職員室までついて来てくれない?」
「あぁ、いいわ。みんなが来るまでに戻れば良いんだし。行きましょ。」
 持っていた餌の箱を金魚鉢の隣に置くと美姫は紅実と共に理科室を後にした。
 二人が出て行ったは水槽のポンプの音が響く以外静けさに包まれた。



     ―――――ホシが二つ動き出す―――――




    ――――――最後の一つは見つからない―――――
季結
2003年04月06日(日) 19時29分16秒 公開
■この作品の著作権は季結さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、久々の続きです。
Rikorisさん、水火さん、ユタマチさん、檸檬さんレスどうもありがとうございます。読者の一言が季結のエネルギー源なのです!!

本編についてです。さて、今回は変な話になってしまいましたがこれで本編らしくない本編は終わりでこれからはどしどしキャラを動かして行きます。お楽しみにお待ち下さい。

出てきた人達みんな『科学兼化学研究部』な上に一年生というオチですがどうか突っ込むのはやめてください。季結はか弱いので(ヲイ!!)
今まで出てきた子供達の名前、ちょっとした連想ゲームになってます。どう言うことなのか考えて見ると面白いですよ。(ヒントは前回のプロローグ、そして星。)
それが彼らに課せられた運命と宿命なのですから。
そういえばサブタイトルの読み方ですが、一応(さだめとさだめ)と読みます。しかしお互いの漢字の意味は少し異なる…。そのあたりがミソになると思います。即興で考えたタイトルなので変なのは許してください。

では、また次の機会に。

この作品の感想をお寄せください。
これで九つの“星”が動き出したのですねwW最後の“星”はどこへやら??名前に隠された連想ゲームはうー・・・考えてみたのですが分かりません(○。○;;私のお気に入りは中原泉ちゃんです♪これからどうなるのかわくわくしています★続き楽しみにしてますvV 5 Rikoris ■2003-04-07 22:53:38 orange2.c3-net.ne.jp
キャラ立ちがすごい。丁寧。バランスよく考えてそうで(名前に隠された連想ゲームは、うーん、わかりそうでわからない/ノートに全員の名前めもってるやつ←^^)。そして最後の星はひねくれものなんですね★ いいですよね、一人くらい問題児がいたほうがw 部が同じなのは、この場合なにかと関係ありそうでいいんですがその分一人一人しっかりと目立たせてくださいまし☆(お気に入りは佑生ちゃん☆ 名前にね、ちょいと親近感が湧きます☆)。どうぞおがんばりください。星。どうなるんでしょうか(わくわくー☆ 5 ユタマチ ■2003-04-07 00:33:16 m094047.ap.plala.or.jp
合計 10
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ


<<戻る
感想記事削除PASSWORD
PASSWORD 編集 削除