冷たい海の一雫〜Historic place4〜 |
失ったものはもう取り戻すことは出来ない それくらいわかりきっていた筈なのに 彼女の胸元には青いクリスタルのついた飾りが輝いていた。 Historic place4.『唄われる心』 ―――――――――だらしない奴。 「うるさいよッ!」 痛む足首を押さえてから直人は姿の見えないシークに向って怒鳴った。 夕暮れ、文化祭の準備にまだ生徒たちはちらほら残っていた。 主役兼大道具係になた直人は今日は居残りになってしまった。ペンキを取りに倉庫までやってきた。 「だいたい仁志くんの前では受け身はとれないんだよ…疑われたら困るし」 ―――――――――充分疑われてる気もするけどな。 「だからだよ!」 側にあったペンキの入ってるダンボールを教室へ運ぼうとダンボールに手を掛けた時、ガラリと倉庫の扉が開いた。 「あ…」 もしかしてずっとずっと厄日は続いてるのかも。 入ってきたのは仁志だ。 (ど、どうしようッ) 直人は仁志の顔を見て硬直してしまう。 人の全てを見透かすような仁志の瞳は苦手だ。 「…仁志くん」 「木の板を取りにきたんだ」 ホッとしたのかわからない安堵感がくる。 「板ならたぶんあっちの方にあったよ…たぶん」 奥を指差して直人は言った。仁志は直人の横を通りすぎて、指差した場所を探し始める。木の板はあちらこちらに散らばっていた気がする。 「オレも手伝うよ」 手間が掛かりそうなので直人もその辺の木の板を探し始めた。 「…今日」 突然仁志の口が開く。 「シークがマリンホールに予告状を出した」 ピタリと直人の動きが止まる。 「へ…へ〜、オレ新聞とかあまり読まないから知らなかったよ」 (もしかして母さんのやつ、また予告状をっ) 笑いながら直人は木の板を仁志に手渡した。 「予告時間は夜7時」 今は6時だ―――――――――。 ちらりと腕時計を見て直人は息を呑む。 何故そんな事を仁志が言ってくるのか、少し不安になってきた。 やはり仁志はシークの正体がわかっているのではないかと。 「兎梶くーん!」 走る音聞こえて綾乃が中に入ってきた。天の助けだと思った。 「も〜おそいよ、何やってるのッ!」 「ごめん綾乃さんッ!」 苦笑いして仁志から目を離してペンキの入ったダンボールを持ち上げた。 その途端に右足が痛んだ。 「…っ!」 「兎梶くん?」 顔をしかめたのがわかったのか、綾乃が心配そうな顔で見てきた。 「大丈夫」 明るく笑って直人はダンボールを持ちなおした。 「こっちを持ったほうがいい」 後ろから仁志が本サイズくらいの木の板8枚くらいと直人が持っているペンキの入ったダンボールと取り替えた。 「べ、別に大丈夫だよ」 「足」 短く言って、仁志はダンボールを持って倉庫を出た。 (…仁志くん、足のこと知って…) 「仁志くんって喋るのね」 不思議そうな顔で綾乃はそう言った。以外にむごい言い方のような気もするが。 「結構優しいとこもあるのね。あ、私も少し持つよ」 木の板を2,3枚持って綾乃は歩き出した。 「…そういえば知ってる?シークのこと。確か今日なんか予告状を出したとか」 ドキンと心臓が鳴る。綾乃がシークのことを口にするとは思ってもいなかった。 「…綾乃さんってさ…」 つい聞いてみたくなった。 「…やっぱりシークみたいな人が、タイプ?」 「え?」 綾乃は驚いた顔をしていた。そして直人も、こんなこと聞くつもりはまたくなかったのに。 「ごっ、ごめん!今のなし!聞かなかったことにして…」 「確かにシークはテレビとかで見るかぎりは…たぶんかっこいいと思うよ。私もちょっとは思うよ」 答えを返した綾乃は少し顔を伏せていた。 「でもね兎梶くん…決してかっこいいだけじゃ何か足りないものがあるんじゃないかな」 その言葉、前にも聞いたことある。 『別に何でもかっこよくても…それだけじゃ足りない何かって言うものがあるんじゃないか?』 そうだ――――――――シークの言葉。 あれはどういう意味なのだろう。再びそんなことを思わせるものだった。 「ごめんね、あまり気にしないでさっきのこと!」 「あ、こっちこそ…ごめん」 2人で笑って綾乃は先に行くから、と言って走り去っていった。 その後ろ姿を見ながら直人も歩き出す。 (いったいいったい、何だったのよ〜ッ) 真っ赤な顔を木の板で隠しながら、綾乃は大きく息を吐いた。 (いきなり兎梶くんがあんなこと言うから…) 頼りなさそうで、だけど誰にでも優しくて、そんな直人―――――――。 「…かっこいいだけじゃないんだよ兎梶くん…だって私は―――――…) 「変な奴だと思われたかなぁ…」 大きくため息をついた直人にシークは笑う。 「笑うなよ」 ちょうど教室の前について扉を開けようとした時だ、開こうとした前に、その扉は開いた。 「おわっ!?」 「うわ!」 「なんだよ、直人か」 扉から勢いよく出てきたのはさとるだった。 「悪いっ、俺先に帰るわッ!」 「へ、あっ、ちょっと…」 「シークが予告状を出したんだよ!スクープスクープ!!」 そう叫んでさとるは直人の横を通りすぎてから急いで走っていった。 そうだった――――――――――。 ―――――――――今時間は? 「…6時30分!?やばいよシークッ!」 木の板をその場に置いてから直人は側にある窓の元へ近づいた。 そして窓の外と廊下辺りを見渡して気配を伺い誰もいないことを確認して大きく息を吸った。 (いけるッ) 心の昂ぶりを感じながら直人は目を閉じた。 一瞬フワリと空へ飛びあがるような感覚から底に引きずられるようなものに変わる。 どこまでも続く空。その空に体を躍らせ、再び目を開いたとき、そこに現れたのは気弱に見えるほど優しい瞳ではなく、強く鋭い瞳だった。 「さあ、パーティーの始まりだ」 彼は風に乗りながら呟いた。照らされる 「あれ兎梶くん?」 さっきまで居たと思っていたはずの直人の姿が見えなかった。 教室から顔を出した綾乃は廊下を見渡して木の板が立てかけられてるのに気付いた。 「…?」 首を傾げて綾乃は木の板を取り、中に戻っていった。 ―――――――――あと3分だよシーク! 「わかってる!!」 トンッと高く飛び上がって星が瞬く空に彼が照らされる。 服装は黒でこの夜空に溶け込んでしまいそうなのに、彼は圧倒的な存在感を持っていた。 ―――――――――侵入方法は? 「まあ見てろって」 自信たっぷりにシークは言った。 「おっそいな〜シーク」 予告状のウワサを聞きつけマリンホールに集まった報道陣たちの中にさとるはいた。腕時計はもうすぐ7時を指そうとしている。 「まさか今日は来ないつもりじゃ」 空を仰いでさとるは目を細める。 「――――ん?」 さとるは手に持ったカメラのレンズを空に合わせファインダーを覗いた。 「シークだ!!」 誰もが空を見上げた。 ―――――――――行こう! 「ああ、行こうぜ」 地面に舞い降りてシークは思いきり地を蹴った。 そして軽やかなジャンプで報道陣の上を飛び越えてマリンホールへ向って行く。 「…すげぇ…」 誰もがそう呟いた。人間の成せる技ではない。 100人を越える報道陣の上を通っていくなんて。 入り口には相変わらず警備が大勢いた。 「シークを中に入れさせるなッ!!」 今日はこそはと結賀警部が意気込んでいて、警備の数も報道陣とあまり変わらなかった。しかし、シークはスルスルと警備の間を潜り、易々と乗り込んでしまう。 これはいつもと変わらない。どんな厳重な警備も彼には簡単に通ってしまう。 ―――――――――どういうルートで行くの? 「そのまま直行」 ―――――――――ええ!?でも仁志くんがなんかやろうとしてるかもしれないのにッ!? 「はいはいはい、やかましいよお前は」 めんどくさそうな言いまわしをしてシークはマリンホールの内部に侵入に成功した。 (おかしい…外はあれだけの警備が張っていたのに) シークは少し警戒しながら歩いた。 しかしそれは『海咲く華』の場所着いても変わらなかった。それどころか最新システムもまったく作動していなかった。 「…」 目の前には広いホームの真ん中にターゲットの『海咲く華』―――――だがシークは動かなかった。 「なんのつもりだ?司令官どの」 シークがそう言うと、青色に輝くクリスタルの飾り、海咲く華の横から人影が出てきた―――――――仁志だ。 ―――――――――仁志くん…。 「どうやら怪我の調子はいいものだな」 「おかげさまで」 ―――――――――怪我…ッ 直人は驚くしかなかった。「やっぱりばれている」と思った。 「それで、こんなとこまできちまったけど、俺の対策は何か考えてるのか?」 余裕たっぷりな声でシークは仁志に問う。しかし仁志は薄く笑っただけだった。 「そっちが来ないならこっちから行くぜ!」 シークは走り海咲く華をその手に取る。 「『海咲く華』ゲット!」 楽勝な顔をしてシークは大きな窓から出ようとしたが、次の瞬間仁志の手に持つものを目にしてシークの動きが止まった。 ―――――――――あれはッ!? 『海咲く華』!? 「いや、ちがう。これも本物だ」 シークは自分の持つ物を目の前に掲げて呟く。 仁志の持つ物はこの海咲く華とクリスタルの色が違った。 あっちは黄金の輝きを放っている。 ―――――――――じゃあ、あれはニセモノ? 「いや、あいつの持っているのも本物だ」 「聞いてなかったのか?海咲く華は人魚の声と涙だと…」 ――――――――そういえば… 「お前の今持つのは“涙”、そして俺の持つのは“声”だ」 今まで見たことないような仁志の表情。憎しみのような顔だ。 「お前はもう逃れることはできない」 スッと仁志がクリスタルを前に出した。 「――――っ!?」 途端にクリスタルは黄金の光を大きく放って耳を引き裂くような音がシークに届く。 「うあっ!」 ―――――――――シーク!?…あぁッ! もちろんその音は直人にも届いた。その音は体に巻きつくように動かなくなり、更に意識をも奪いそうだった。 「…ぐッ…」 音を塞ごうと両耳に手を押しあてるが止むことはなかった。 「お前が“あいつ”を呼び起こした。シーク、その罪を払ってもらおう」 ―――――――――仁志、くんッ… 聞こえるはずもない声なのに、仁志の表情が少し歪んだ。 「…君を、傷つけるつもりじゃ…ないんだ」 仁志は苦痛に眉を寄せて体勢を崩した。それをシークは見逃さなかった。 動きづらい体を起こして窓を割って外に飛び出した。 「司令官どの!」 バタバタと結賀警部と数人の警察が部屋の中に入ってきた。 「今の音は一体…」 「シークを取り逃がしました。海咲く華を受け取り警備員に渡した。 騒ぎがなくなった時、仁志の向かう先はマリンホールの目立たない裏庭だ。 キョロキョロと辺りを見回すようにして気配を伺った。カサリと草を踏みしめる音がする。マリンホールを流れる小さな小川、彼は川に半分浸かるようにして倒れている人物のもとに辿り着いた。 黒が主な服は少しぶかぶかで襟元から鎖骨の窪みが見えている。 その首元に仁志は手を伸ばした。 「脈は、安定しているな…」 仁志は直人の首筋からてを離した。 「…すまない…」 君じゃない――――君を苦しめる気はないんだ。 直人の上半身を起こし、その脇の下に仁志は自分の肩を入れる。そして、背中に担ぎ上げた。 近くにあった大きな木に直人を座らせる。背中と片側に支えがあるのでこれで少しは楽になるはずだ。 「…っ…」 視界が回る。浅く苦しくなる呼吸を落ちつかそうと仁志は直人の横に腰を下ろした。自分の体の状態はあまりよくない。それが示すことを仁志は知っている。 時間がない。 「侵食」が始まる前に、なんとかしなくてはいけない――――――互いに。 「・・・」 暫く経ったと思う。まだ直人の意識は戻っていない。 ちょうだい―――――――― 「!?」 直人の手にある海咲く華が青く光った、と思った途端に声が響く。 「ばかな…っ」 仁志が勢いよく立ち上がった。 「そんなはずない!」 あなたの力を私に――――― 「なぜひとつで、力を持つんだ!?」 大きくその光は輝いた――――――――――。 お願い。 |
ヒカリ
2002年11月18日(月) 16時16分40秒 公開 ■この作品の著作権はヒカリさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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こにゃんちは!人魚姫ですか…えーと泡になってとか…基本的にはリトル○ーメイドが頭の中に入っていますよ。なんでだろうか?? | 5点 | 紫水 | ■2002-11-19 13:32:54 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
あぁ、やっぱりその所ですか…まさか、とか思ってたんですけどねぇ。分かりましたよ、完璧にアノ人にアノ歌詞ですね?!人魚姫ってディズニーと童話とで少し違うから、その部分が何となく悲しかったり嬉しかったり…。ま、今回もなかなか面白かったです、次回も頑張ってください!んで、水希も頑張って小説書きますよ。はい、頑張らせていただきます☆ | 5点 | 水希華蓮 | ■2002-11-19 13:32:31 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
その歌詞は〜♪ さて、お話し盛りあがってまいりました♪ ドキドキの展開。そして、二人の恋の行方は♪(ばか)。 次回もファイト! | 5点 | ユタマチ | ■2002-11-18 21:02:45 | k118098.ap.plala.or.jp |
合計 | 15点 |