sensational diving 4 |
第四章 夢が残した痕跡 夢を見た。何だかよくわからない、でもやけにリアルな夢だった。 昔の映画のようなモノクロの世界だった。目の前に誰かいるのがわかる。でも、視界が霞んでよく見えない。 ”誰?” そう口にしたつもりだった。が、声が出ない。 急に視界が鮮明になった。目に映ったのは、見覚えのある優しい顔。照れくさいから口には出さないけど、私が感謝してる人物の顔。 (・・・松本だ。) が、何だか様子がおかしい。松本は微動だにせず、床の上に寝転がっている。 (こんな所で寝てたら、風邪ひくのに。) 足が勝手に動く。私はどうやら部屋を出ていくらしい。あぁ、ここって10階の資料室だ。一度、松本に言われて資料を取りに行ったことがあったっけ。 部屋のドアに手をかけた”私”は後ろを振り向いて、肩をすくめて言った。 「あ〜、疲れた。力仕事って苦手なんだよなぁ」 はっきりと。鮮明に。聞こえた音は、それだけだった。 結局、熱は2日で下がった。 丸2日も寝ていたせいか、頭がはっきりしない。一度、仁が様子を見に来たのは覚えてる。今にも倒れそうな顔で「生きてるかなーと思ってさ。」なんて言って、無理して笑ってた。そりゃ嬉しかったけど、自分も相当辛かっただろうに。まああいつらしいと言うか、お人よしと言うか。 仁ももう熱は下がったらしい。結局、弱る時期も治る時期も一緒だった。つくづく腐れ縁だ。ほとんど家族みたいな付き合いしてるんだから、当然かもしれないが。 仁は今、私の視界の隅にいる。と言うよりは、「私が意識して仁を視界の中に入れている」と言った方が正しいかもしれない。そうしておかないと、まだ病み上がりの体で、ふらふら外に出て行きそうだったから。 近頃の仁を見てると不安だった。今にも私の手の届かないどこかへ行ってしまうような気がして。その”手の届かないどこか”へ行ってしまったら、仁はきっと不幸になる・・・そんな気がして。嫌いじゃない奴に不幸になられると、結構、いや物凄く目障りだ。 別に私はあいつの家族でも恋人でもない。友達と言うのも違和感がある。けど、「赤の他人」と言うのにはもう遅すぎる。もうかなりの時間を一緒に過ごしてしまったから、既に情が移ってる。時効だ。 それに、あいつは不器用な奴だ。口下手だし、嘘はつけないし、傷つくことを何より恐れてる弱い奴。私と一緒だ。 「”同類”には、できることなら不幸になってほしくない」 そんな思いが、私の中にはあった。 何となく仁のほうへ目線を向けると、目が合った。仁は笑って言った。 「何だよ、さっきから哲学的な顔して。」 「どんな顔だよ・・・」 ”仁が笑ってる。”とりあえず今は、それだけで良かった。 静かな日だった。不気味な位静かだった。 ”静かすぎて気味が悪い”私がそう言うと、仁もうなずいて言った。 「何て言うんだっけこういうの・・・ほら、”何とかでこんとかで静かさぁ〜♪”みたいな」 「・・・”嵐の前に静けさ”じゃないの?」 「それだ。」 ”嵐の前”・・・こんな時だけに、嫌な予感がした。 少なくとも今日だけは、仁を見張っていよう。あいつは、放っておいたら自分から”嵐”に巻き込まれに行きそうな気がする。そうなってからじゃ面倒だ。 ふらふらと散歩に行こうとした仁を止めながら、私はそう決心した。 とにかく静かな日だった。仁は何事もなかったかのようにふるまっていたが、私の頭からは、3日前に見た、仁のあの泣きそうな表情が消えることは決してなかった。 あの日、どこに何をしに行っていたか気にはなったが、私はもう何も聞かなかった。ていうか、聞いても無駄だと思ったのだ。今はとりあえず待とうと思った。仁がもし私なんかを信用してくれて、私に全てを話してもいいと思ってくれるなら、その日まで。 私の視界には、テレビを見ている仁の横顔が映っていた。 どうかこんな日がいつまでも続きますように。私の視界から仁の姿が消えることのないように。それ以上は、もう何も望まないから。 別に信心深いわけじゃないが、こればっかりは神様にお願いするほかないと思った。 静寂は長くは続かなかった。午後1時、それまでの音を取り戻すかのように、静かな日は一転して騒がしくなった。 噂は突然転がってきた。 「松本が殺された」 頭の中が真っ白になった。仁はまるで、余命半年を宣告されたガン患者みたいな顔をしていた。私にとっても仁にとっても、松本は命の恩人だ。ショックを隠せないのも無理はない。 更に驚いたことに、殺害現場は「10階資料室」。 それを聞いた瞬間思い出したのは、もちろんあのリアルな夢のことだった。 予知夢でも見たっていうのか?でなきゃ・・・まさかとは思うが・・・私がやったっていうのか!? そんなはずはない。あり得ない。だってその証拠に、夢から覚めた時私はちゃんと布団の中にいたじゃないか・・・ とにかく、考えていたって始まらない。仁と私は、10階資料室へ向かった。 「願わくば、全て嘘であってほしい」 絶望的な気持ちで、私はまだ夢みたいなことを願っていた。 |
pinna
2002年11月17日(日) 16時14分26秒 公開 ■この作品の著作権はpinnaさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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この二人の関係って複雑で、書いてるほうはもっと複雑なのかなぁ、と思ったり。ううぅ、はやく、はやく続きが〜(笑 | 5点 | ユタマチ | ■2002-11-18 00:16:21 | n192121.ap.plala.or.jp |
今回もっ!またまた意味深な感じです★一体、犯人は!誰なんだぁ〜〜〜! | 5点 | ゆめ | ■2002-11-17 22:36:11 | i149082.ap.plala.or.jp |
合計 | 10点 |