冷たい海の一雫〜Historic place3〜 |
「あの人の側にいたい、逢いたい。 神様、どうしてあの人と私は違うものなんですか?」 私はあなたのことが気になる存在になりました。 気付いていないかもしれませんが、あなたをずっと見ていたんです。 あなたさえいれば、見ているだけで私は幸せだったんです。 けれど私とあなたとは本当に別々のもので 人間と人魚、許されない恋 私はどうすればいいかわかりません―――――――――― Historic place3.『伝わる想いと涙』 「あ、それこっちに持ってきて〜」 「それはこっちだ!」 いつもより違う騒がしさが、飛羽第一高校を包んでいた。 文化祭が近づくと、授業がなしで準備に追われるのだ。 特に2年2組は全体練習や衣装作りに専念していて、静かなような、騒がしいような雰囲気が漂っていた。 「兎梶くんと仁志くん遅いね」 綾乃が教室を見渡してそう言うと、衣装担当の女子たちが頷いた。 「主役2人が来ないと始まらないのに〜」 「今日、サイズ合わせしなくちゃ、間に合わないよ」 教室内が慌ただしくなっていた中、直人は教室前の廊下で中に入れずに立っていた。 「・・・・・」 はあ、と大きくため息をついて昨晩のことを思い出した。 (“彼が”…) 下見に行った時、出会った彼 シークを捕まえようとする警察の中にいた―――――――― 「入らないのか?」 後ろからの声。 (げ……) 恐る恐る振り返るとそこには、あまり会いたくない人物、仁志の姿があった。 「あ…入ろうとしてた、とこ」 そう言って仁志に笑いかけた。しかし仁志はにこりともせずジッと直人の顔を観察するかのように見た。 そう。 仁志洸司くんがあの場にいたことだ―――――――――。 信じられないかもしれないけど、仁志くんが警察官でオレがシークだってこと。 (まさかそれがバレた―――ッ!!?でもッ外見も全然ちがうのに…ッ) パニック寸前の直人の横を通り抜けて仁志は教室の扉を開け 「…ちがう…」 (…!) 仁志はその言葉を呟いて中へ入っていった。 「…ばれて、ない?」 ホッと安心したとも出来てないとも言えるように直人はもう一度ため息をつく。 「おはよう、兎梶くん」 教室に入っていくと、まず綾乃が声をかけてきた。 「あ、おはよ」 「全体練習始まる前にサイズ計りたいんだけど、いいかな?」 メジャーを出してきて綾乃が言った。 「え…あ、うん」 「どうしたの?元気ないけど…」 「な、なんでもない!」 慌てて首を振った直人に綾乃は心配そうな顔をした。 「熱とかあるんじゃない?」 綾乃が黒く、長い髪を耳に掻きあげてから、直人の額に手を当てる。 その行動に直人は心臓が破裂しそうなぐらいドキドキしている。自分の鼓動が耳元で聞こえているようだ。 「大丈夫だから!」 「そう?」 さっきから焦ってばかりだ。でもあれとこれとは別ものだ。 (勘弁してくれ〜っ) そう思ったときだ。 「よ〜っ直人!!」 言いながら、思いっきり直人の背中を叩いてきたのはさとるだ。 「…さとる、普通の挨拶ってないわけ?」 「いやぁ、景気悪そうだったから、つい」 「…」 あまり嬉しくないことだが。 そう考えながらも直人は綾乃にもう一度「大丈夫だよ」と笑って一言。 「おーしッ!!!!!主役の2人もやって来たことだし、全体練習するぞ!!」 いつのまにか側にいたさとるが、教壇の上で立ちながら、大声でそう叫んだ。 机を後ろに下げた皆が、台本を手に前にやってくる。 (…やだな) なんたって直人は、男なのに主人公の人魚姫役。 運が悪いとしか言い様がない。 「それじゃあ、一応確認するぞ〜!!」 さとるの声が響く。 太陽さえ届かない深い深い海の底。 そこには人魚と呼ばれる種族が住んでいた。 そしてこの人魚たちの世界 7つの海を支配する人魚の王が存在し その王には5人の娘がおり その娘の中に人魚姫と呼ばれる美しい少女がいた―――――――――。 しかしその人魚姫は非常に活発的でほとほと王を困らせていたのだ。 けれどそんな人魚姫は人々に愛され、王も人魚姫を愛していた。 ―――――――――なんか、綺麗すぎる話だな。 今まで黙っていたシークがいきなりそんなことを言った。 さとるが説明するなか、直人はそのシークの言葉に疑問を感じた。 「どういうこと?」 小声で聞くと、シークは「何でもない」と付け加えてきた。それでも直人は気になってしょうがなかった。 「教えてよ」 しばらくたつとシークは呆れたようにため息をついてから喋りはじめた。 ―――――――――童話っていうのは…人の言い様に付け足されて、その物語が現在に引き継がれているんだ。そんなのって、おかしいだろ?どんな悲しい話でも、最後は感動的な結末のやつが多い…、本当の物語はどこにあるのかなってさ。 「でも、この“人魚姫”は泡になって消えてしまうんだよ?」 ―――――――――それさ。人魚姫は最後は満足していただろう?やり残したことなんてなかっただろう。幸せだったんだ、最後にはな。 シークの言いたいことは、わかるようなわからないような、そんな感じだった。 「直人〜!!こら、おまえは聞いてんのか!!?」 「へ?」 さとるが教壇の上で直人に向かって叫んだ。その声で我に返った直人は、自分に注目しているクラスメイトに気付き、恥ずかしくなった。 「ご、ごめん…」 笑いかけるとさとるは「仕方ねぇな」とぶつくさ言いながら、話を戻す。 「シーン2から始めるぞ〜」 難破船から王子を救い出した人魚は王子に恋をする。 『…助けてくれてありがとうございます…君は?』 王子役の仁志がそうセリフを言うと、大半の女子が「きゃ〜っ」と黄色い声を発した。 無口で無表情でもかっこよければ良いらしい。 「次、直人!“少し戸惑った顔をして”」 監督のさとるが指示して直人も片手に台本を手にした。 『ごめんなさい!』 「そう言って人魚姫は去ろうとするが王子がその手を引き寄せた!」 『名前だけでも教えてくれないか?』 捕まれた手は無意識に払おうとしてしまう。 お前の正体は―――――――――――― 「うわっ!!」 バッと仁志の掴んでいる手を思い切り、振り払ってしまった。その時、直人の足元が絡み、こけそうになる。 (だめだ!受け身が取れない!) そう思った瞬間、直人の腕を掴んで床に倒れ込むのを阻止した者がいた。 「仁志くんっ!ご、ごめん!!」 倒れかかる身体を戻して、直人は仁志に謝った。 「…いいや、足元に気を付けたほうがいい」 冷静に仁志は言った。 「こら〜、頼むぜ直人!!」 呆れたようにさとるは直人に注意してから、また練習を再開させた。 (おかしい…) 仁志に手を掴まれた時、自分が捕まりそうな気がした。 (そんなはずないのに) シークは自分と別々の人間だって思っているのに。 ズキンと右の足首が痛んだ。あの時に捻ったんだと直人は思った。 (ちゃんと受け身取っておくんだった) 今ごろ悔やんでもしょうがない。でも、あの時に受け身を取っていたら、きっと仁志に疑われたかもしれない。そう思って受け身を取らなかった。 (バカだな…どうしてオレが悩まなくちゃいけないんだろう) そう思っても、直人は自分に納得しなかった。 ―――――――――そっくりだな。 本当に直人に聞こえないように、シークは呟いた。 ―――――――――俺の本当の名前を取り戻せる時は来るのか? そう聞いてみても、誰も答えを返してくれない。 わかりきっていることなのに。 馬鹿らしくて笑いが込み上げてくる。 『―――――それは“良くない”ことだってな!』 ―――――――――わからないさ…、お前の言ったことは。 でもどうしてあんなにも傷ついてしまったんだろう。 今頃、どうしているんだろう。 ―――――――――本当に…迎えに来てくれるかわからないのに、どうして期待なんかしてるんだ…俺は。 自分も自分の光を見つけに今を生きているんだ。 いつになったら“罪”は終わるんだ? |
ヒカリ
2002年11月07日(木) 15時28分58秒 公開 ■この作品の著作権はヒカリさんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | ||||
---|---|---|---|---|
どうも、水希華蓮です☆私の小説見てくれて感謝ですvv上記の英語のプレゼント有難う!次回も期待してるから頑張って!!(もうタメでいかせていただきますわ) | 5点 | 水希華蓮 | ■2002-11-08 10:58:34 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
また・・・やっちゃった・・・どうやら、エンターを何回も押すっぽいです。こうブルブルとなっちゃうみたいで。これからも頑張って!! | 3点 | 紫水 | ■2002-11-08 10:58:21 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
一点大暴走ってどうやってやるんだろう・・・なんか間違って打っちゃったみたいで | 1点 | 紫水 | ■2002-11-08 10:56:20 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
一点大暴走ってどうやってやるんだろう・・・なんか間違って打っちゃったみたいで | 1点 | 紫水 | ■2002-11-08 10:56:20 | taiheiyo.taiheiyo.ed.jp |
あれですかね、スク@アで”光”ときたら…(ニヤソ)。 なんていって、まだわかっていなかったり〜(爆)。 人魚姫の台本と交差するような心境が、ドキドキものです。ファイトでし&ヒカリさんは英語得意なのかな? | 5点 | ユタマチ | ■2002-11-07 16:20:37 | k118070.ap.plala.or.jp |
合計 | 15点 |