【妖星乱舞】No.14 |
人は、どうしていくつもの屍を踏み越えてでも、生きていかなければならないんだろう。 とか。 オレたちが生きる理由って、なんなんだろう。 とかよく思うけど。 生きている理由だなんて、生まれてきたってことでいいんじゃねえか? それか駄目なら、きっと。 何故生まれてきたのか、その理由を探し求めるのが、きっとオレ達の生きてる理由なんだろう。 side・?『長い長い夜』 「お~い」 ホーゥ、ホゥホゥホーゥ。 夜の三日月に誘われて、夜影に隠れた欅の枝の梟が、一声低く鳴く。 その表面から放たれた月光に照らし出されて、長身の男の姿が浮かび上がった。肩には小さな小さな白い鳥。ちくちくと小さく声をあげながら、自らの羽根を揃えている。 「聞こえてんの?お~い」 先程からその長身の男は、誰かを呼んでいるようだ。目線は目の前の大木の枝、何を考えているのかいまいち読みとれない漆黒の瞳が、見透かすようにちろりと蠢いた。 「おい、びゃっ……」 !!! ス、と男……ラー=S=ソールは身を屈め、前方から吹っ飛んできたものを素早く避ける。その途端に背後でぐぁああという断末魔が聞こえ、ちらりと振り返れば黒のぴったりとした装束に身を包んだ男が、腹に小さなナイフを従えたまま事切れていた。 ソールは別に興味もなさそうな顔をして再び視線を戻すと、先程まで誰の姿も見えなかった枝の上に、いつの間にか黒い影が膝をたてて座っているのに気づく。 「おいおいソール。お前さ~、後ろに敵いんのちったぁ気づけって♪♪♪俺の名前聞かれるトコだったじゃん♪♪」 「わり。気づかなかった。でもさすが白虎だよな、ナイフ裁きが相変わらず天下一品で」 しゅたっと音がして、木の上から14、5ほどの少年が目にもとまらぬ速さで降りてきた。額には紅蓮のバンダナを巻き、虎の描かれたシャツと短パンというごく普通の出で立ちだ。 しかし、先程の黒装束を殺めたのは間違いなく彼である。 ソールは漆黒の瞳をきり、と開き、そのあと人が変わったように表情を緩めてにへにへと笑い出す。が、白虎はその変化を知ってか知らずか、どうだかねえと笑った。 「んで?オレに誰への手紙運べっての?」 頭に軽く巻き付けた柔らかめのターバンが、天から召された夜風に靡く。そして懐から煙草を取り出して口に挟む。そして火を付けようと懐をまさぐると、不意に煙草の周りに火風が発生、小さく火花が散って小さな炎が灯った。 ゆるりと間を取って、白虎と呼ばれた少年を見ると……少年の右手が小さな炎にまかれ、辺りでは風が鳴っている。 「ん、さんきゅ」 ふぃ~……と、ソールが指で煙草を挟み、口から白い煙を吐く。現代の煙草は高機能らしく、様々な効力や揚力を含んだ薬草を束ねる為、身体に一切の害はない。なので、以前の感覚のまま安心して煙草が吸えるのだ。 彼が一区切りしたのを見計らってか、白虎は少し時間を取って腰のヒップバックから一枚の手紙と薄い布につつまれた小さな小さな包みを取り出し、こちらに差し出した。 それをチラリと見下ろし、ソールが怪訝そうな顔をして笑う。 「なんだぁ?オレは宅急便じゃないぜ」 「いいじゃん♪♪♪二つとも軽いし!!!な?」 「…ま……こいつに運べる程度なら運ぶけどよ…」 ソールがその手紙セットと小さな鳥を見比べた。その手紙と四角く薄い布を重ねて丁寧に鳥の嘴に挟み、頑張れよ、と白虎がその鳥に笑いかけている。 鳥はちちっと小さく鳴き、嘴で羽根づくろいをしている。そんな鳥にも白虎は笑みをみせ、その鳥を指に乗せてやった。 「この鳥、式神の類かなんか???」 「ぃや?ぜ~んぜんふっつーの鳥だぞ。名前はつけてねえけどな」 「古代風塵の「風上魔裂書」に掲載されている資料の割合的には、約七十五%の可能性で「風見鶏」の一種だと思われるわね」 と。 突然、自分たちの声とは百八十度違う、艶めかしげで落ち着いた冷淡な女の声が聞こえた。こつ、こつとブーツの音が鳴り、不意に消えた。 …… ソールがにやりと口元に笑みを浮かべ、小さく汗をかく。 やるな、彼女。 全然、気配が読めなかった。 「…?」 白虎がぴくりと反応し、その童顔がぱっと光りを成した。すると再び気配が再来したときには彼女は大きいその木の一番上の枝から、その紺色のコートと中に着込んでいる柔らかい黒のローブを空気にふわふわと靡かせながら、しゅたり、と微塵のずれもなず立ったまま着地する。先程の白虎と同じようにだ。 そして本を持っている手ではない方の手で、ゆっくりと黒髪を耳にかけた。 「そうでしょう?世界各地で郵便等をその風見鶏で行い、食をまかなっているラー=S=ソールさん?」 昔、暗殺組織は闇に生き闇に死ぬということを聞いたことがある。 悪魔帝王にその天才的な能力を授かりこの世に生を受けた者達は、誰しもが自分の意志でその場所に身を寄せるというのだ。 なら、殺人をする者でつらいものなどいないのか? 「ビンゴォオッ♪リッティ~~~♪♪俺っちずっとお前のこと待ってたんだぞ~♪♪」 「ちょっとやめてくれる?カル男。しかも以前リッティーと呼ぶのはやめてとあれほど言ったのが聞こえてなかったのかしら?」 「つれないな~、リッティ~。でもそんなところも可愛いんだよな♪♪♪」 「……白虎、怒るわよ」 …帝国には最強の十配下と呼ばれる集団がいる。が、やはりその中でも楽しさや賑わいなどは存在するようだ。 ソールはそれを知らないわけではなかったが、それを聞いて少し安心した。 しかし……どうやらこのリティという少女、非科学的なことは全く信じないようだ。カル男とあだ名をつけられてまった白虎でも、殺意を微塵と見せない。「標的」への「お仕事」は、いつものようにおちゃらけた笑顔で向かうのだが、その膨大な殺意はもう隠しようもない。 ソールはちらりと彼と彼女を見比べた。そして再び真意の見えないその漆黒の瞳を細めて、リティという少女を見つめる。 読めた。 「さて……。と、リティさん?」 「いいえ、私はリティではありません。リティシャ、というれっきとした名前があるわ。リティシャと呼んでくださればいいのよ」 「リッティーって呼んでいいのよ♪♪♪ソールッ♪♪」 「…白虎……。リッティーと呼ぶなとあれほど言ったでしょう…?」 「んん?いやいや♪♪リッティーは俺っちだけのリッティーだよ♪♪♪」 「それに、私の真似をするなど言語道断だわ。だから単細胞男って言われるのよ。女を誘うことしか覚えない猿男ってね。そんなことも自覚できないなら、エヴリニトク様とこの「十配下」を侮辱しているようなものだわ。今すぐ出ていった方が懸命じゃないかしら」 「…リッティ…いやリティシャ???」 「その「唯一」得意なナイフ芸でも生かして大道芸人にでもなったらどうかしら?馬鹿げた道化師化粧そのまぁまぁな顔に塗って、ジャグラーでもして食をつないで生きていけばいいわ。まぁそうなったらひどく姑息で孤独な人生だけど、それはあなたにもの凄くお似合いよ、白虎」 「いや♪♪それ程でも♪♪」 「白虎……リティシャは嫌味を言ったんだと思うんだけど、オレ……」 マシンガントーク。 帝国の物は彼女のその毒舌をそう呼んでいる。 一言でも気に障ることや非科学的なことを言った途端、彼女の瞳は軽蔑の一本に細められ、その口からは小さな事実を大袈裟にして更に詳しく言いくるめたような毒舌が耐えなくなる。 さすが「X-TENTH」のリティシャ。それに、オレの「目」も感覚が鈍ってなかったみたいで良かったぜ。 ソールは誰にも分からないような小さい笑みを、ふ、と口元に漏らした。 「…単細胞すぎて私まで目眩がしてきたわ……あなたもしかしていじめられてた?後頭部叩かれすぎて脳細胞何兆と死なせたんじゃないの?脳、ちゃんと通常人間定数の皺あるの?」 「それぐらいあるに決まってるだろ♪♪」 「疑いたくもなってくるわよ……一度言ったことを覚えずに、それを何度も何度も繰り返すだなんて鶏並みの知能ね。せめてゴリラぐらいになってみなさいよ。神人の一員として恥ずかしくないのかし…」 「…リッティ~♪」 「…なに」 「冗談って言う言葉知ってる?♪♪♪」 (おいおい白虎、それはタイミング悪ぃんじゃねえか?) あまり焦ったり苛ついたりしたいソールだったが、この時ばかりは少々呆れた。 真意じゃない、白虎は何かに本気を使ったことが無いのはすでに見透かしている。彼はいつでも適当に、楽しい人生を送っていればそれでいいのだ。 だからこそ、ここまで色々な人々に笑顔を見せれるのだろう。ソールは一部を除いて白虎を少し尊敬してみた。 しかし、絶妙なタイミングの白虎の言葉を受けたリティシャは、その涼しげな顔には一切見せないが、今のでどうやら少しキレてしまったらしい。その涼しげな顔の裏で本を握りしめている手は血が引いて真っ白に変色してしまっている。 白虎、逃げた方がいいんじゃねえかと耳打ちをするという手もあったが、ソールはそこまで考える程優しすぎる人間では無かった。 その場…要するに彼女と彼の丁度真ん中にどすりと座り込み、にやにやと笑いを隠せない彼は、どうやら観戦を決め込んだらしい。 「…久しぶりにあなたの「小本気」がみたいわ、白虎。用意はいいかしら?」 「リッティー、俺っちと戦うの??やめといた方がいいぞ♪♪小本気の俺っち、「強い」から♪♪」 白虎が、余裕シャキシャキの顔で後頭部で両手を組む。その答えに、それはどうかしらね、とリティシャも余裕の顔で答えた。 …辺りに風がなり始める。どちらの風かは分からないが、確実に彼等三人を取り囲み、僅かに木の葉を浮田足せていた。 そして、一番最初に行動を起こしたのは、勿論リティシャだった。魔術師の彼女は、魔法の詠唱時間に少々時間がかかる。それは白虎も百も承知なので、「一番最初の詠唱」の際には手は出してはいけないというのが、この世界の掟なのだ。 手に持つ分厚い本が、彼女の腕で一瞬にしてパラパラパラと開かれていく。彼女は一回だけで何の魔法がどこにあるかをすでに見極めているのだ。そして彼女がその白い手を振りかぶった瞬間、金色の魔法陣が彼女を中心として浮かび上がった!! 風がその魔法人の周りを吹き、リティシャの黒髪が靡く。彼女は空中に開いた本を託すと、そのほんの下にだけ金色の線が走る。力の塊だ。そしてその指を複雑に組み、瞳を閉じ、何かの詠唱を始めた。 「 ハリスネタラカド ヒラナルカン アビデドサラテド カリナテルン 」 『ドックン!!!』 力の躍動に押され、リティシャの心臓が激しく脈動した。 やがて魔法陣から力の塊らしき金色の球体が浮かび上がり始め、彼女の顔を所々に金色に照らした。 開いた本の、きめ細かく細字で描かれた沢山の文から、一文だけ橙色の光りを放っている。その呪文を唱えているのだろうか。 彼女の指が更に複雑に紋を組んだ。 「この夜空の力を借りて、我、ここに呪文を唱えん。我が憎悪を抱きしあの者に、汝から裁きの雷を与えよ」 ヒゥゥゥゥ…と、風が鳴る。空は一面の星空。三日月は先程よりも明るくなったその場所を、じぃっと見守り続けている。 しかし白虎は、にやにやとした顔で手を後頭部で組んだままだ。 「数多の星達よ。我に力を貸したまえ……。闇に眠りし、その大気に満ち足りた稲光を、我の前に示せ」 その直後、浮かび上がった魔法陣が、更に激しい黄金色の光りを放った。シュパァという音がし、風が一瞬だが止まったようにも思えた。 そして彼女の紋を結んだ手が開かれ、彼女の左手がしなやかに線を描いて宙に上がる。 「契約は完了されたし!!解き放て、鬼神の怒りを!!!」 じゃり、と白虎の小石を踏む音が何故か大きく響いた。その直後彼女の掲げた手に、天空の四つの星から輝く四本の光線が落ち、彼女のその左手に吸収される。 そしてその刹那、閉じていた彼女の金色の瞳が見開かれた!! 「『サザンクロス』!!」 一気に、振り下ろされる。 『ビガガガァアアアアアア!!!!!!グォオオオオオ!!!!』 彼女の手から発せられた四本の光りは色とりどりで、真っ直ぐ白虎へと向かって放たれていく。それはまるで怪物の咆哮のようなうなり声をあげ、ずんずんと加速していく。 しかし白虎はあせらずに、ほんの少しだけ右足を滑らせて口元に笑いを浮かべている。一体何が目的なのか、彼の表情からは見当がつきそうになかった。 ソールは、こんな状況にかかわらず、なんと寝ていた。しっかりとあぐらを掻き、後ろの木にもたれかかって、静かな寝息をたてていた。何故。 ソールにカメラが行っていたのもつかの間、白虎は迫り来る四色の光線をまず飛んでよける。その光線はまっすぐ木にあたり、その木をも吹っ飛ばして森のずっと奥までそこだけを貫通していった。 しかし、飛んだ白虎の姿が見えない。もしや先程の木と共に吹っ飛ばされてしまったのか。それとも避けたつもりが避けきれなくて、あの木っ端微塵になっている木の残骸のように、跡形もなく消滅してしまったのか。 しかしリティシャは、勿論同僚がそんなヘマをしないことなど知っている。また本に向かって片手を一閃、厚手の本は一瞬にしてめくる。そして今度はピースの二本の指をくっつけた形で様々に空気を切り始めた。 しかしそれも束の間、リティシャは警戒の色に瞳を染めて、顔を上げて辺りを見回した。 …気配だけが、周りを驚くほどの素早さで走っている。 姿形を見せるほど、「十配下」は甘くなど無いのだ。 リティシャは辺りを鋭く見回しながらも、片手で紋を切って詠唱を続ける。すると先程の魔法陣のかわりに彼女の左手の甲に先程と全く同じ、しかし縮小した魔法陣が浮かび上がり、僅かな光りを称えていた。 風が吹き荒れている。 彼の「気配」は素早く走り、時々消えては一瞬で別の場所に現れる。まるで、リティシャをからかっているかのように、だ。 そのうちに彼女の呪文の詠唱が終わり、彼女は左手を踊らせる。 「『スルー』!!!」 淡い水色の光りを放つ塊が、光速並みの速さで宙に舞い上がり、そして何個にも破裂しあたりを照らす。 彼女が唱えたのは、姿を消している者の姿を現す呪文だ。しかし姿が見えたからと言って気は抜けない。勿論、何時でてくるか分からないからだ。 いつ、来る。 そして彼女が草むらの奥を見つめた瞬間だった。 キュウン!!キュンキュンキュン!!!! 「く!!」 木の合間から突如、鈍い光りを放つナイフが四本、自分に向かって一斉に放たれたのだ!!リティシャは右手を正面につきだし、光りの膜を瞬時に張る。そのナイフは彼女に突き刺さることなく、光りの膜に跳ね返されて横の大木に四本とも突き刺さった。 彼はきっと別の場所に移動している。気を抜くな。バリアを張れ。 しかしその刹那。 ガサアァアアアアッッッッ!!!! 「何ですって!?」 なんと、ナイフを投げたその場所から一歩も離れず、その場所にとどまったまま木の合間からこちらに向かって飛び出してきたのだ。彼は最強の運動神経を誇っており、跳躍力もなかなかのものだ。 彼はあの余裕を浮かべて笑っていた。 シュキシュキィィン!!! クロスしていた両手首のリストバンドから、刃渡り六十五�Bほどの刃が飛び出し、開かれる。そして彼はまず右手を唸らせ、彼女の右腕あたりを一閃。しかし彼女は咄嗟にあの厚い本で防御した為傷はつかないが、その鋭い刃に裂かれた本のなんページかは根本からちぎれ、まるで血のように宙に舞った。 咄嗟に彼女は力を貯めていた左手をうねらせ、額の前に斜めに押し当て、そして放つ。 「『ファイヤーサイクロン』!!!!!」 『グァアアアアア!!!!!』 その途端に巨大な炎の渦が現れ、散ったページが一瞬のうちに燃え尽くされて消える。 彼は勿論それも反応し、後ろに二、三歩跳んで退く。しかし行く手が阻まれたのにもかかわらず、彼は余裕の笑みを浮かべた。 そうか。 彼女の頭に彼の考えていることが浮かび、咄嗟に彼女は紋を結んでいく。 毒は毒で制す。それが一番の方法なのよ。 ソールが眠っていたはずの横目をちらりと向け、二人を観察していることも、二人は気づいていない。 白虎はふ、と右手をあげる。そして刃の具合を確認し、今度は再び飛び上がった。それも、もの凄い高度だ。 一番の大木を越えた辺りで、ようやく上昇が止まる。そう思った途端、彼が空中でくるりと一回転し、今度は頭をこちらにしてまっすぐ降りてきたのだ。 彼がそのまま着地すれば……。炎の渦に巻き込まれ、焼け死んでしまう。 「『風雷!!鎌鼬(かまいたち)!!!』」 その場を取り囲んでいた風が、一斉に空へ上がった。 そして白虎の刃へ全ての大気中に浮かぶ風が向けられ、そして無数の刃となって炎の渦とリティシャを切り裂くべく走った。そう、それは全てを跡形も無く切り裂く鎌鼬の如く、だ。 が。 風の半分が、逆流をしている。 彼女の詠唱がすでに終わり、両手がかかげられていたのに気づいたのは、刃を振りかぶった直後だった。 白虎の余裕だった瞳が、ほんの少しだけ驚きに開かれる。 「風よ、力を!!『ウイングアウト』!!!!」 『ゴォォォぉおおおォォォオオオオオおおおおぉおおお!!!!!』 四大神人の中の一人「風神」白虎の発した無数の風の刃が切り裂き、彼女が発した風力最大魔法「ウイングアウト」の威力により、各地から吹き飛んできた木の残骸やら家具やらが一斉に一カ所に集まる。 双方からぶち当たった風力により、反動は上へと一直線に広がった。竜巻を巻き起こし、中で鈍い音をたてている。 そして…… 「相殺、みたいだな」 「…そのようね…」 辺りは、お互いがお互いを切り裂き、壊し、何も残らなかった。 「今日は、やめとこうや??」 白虎が刃をシュウンと戻し、にかっと笑う。 「…そうね。一時休戦。今だけは許してあげるわ」 彼女も魔法陣をおさめ、本をぱたんと閉じて口元に僅かな微笑をたたえる。 そこで彼女が視線を移すと、瞳を閉じて静かな寝息をたてているソールに気づき、白虎に顎でくい、と合図した。 「へいへい♪♪♪…ソールっ、お前よく寝てられたな。でけぇ音だったから普通に鼓膜破れてると思ったけど、全然平気そうじゃん♪♪」 「んぁ…っ?終わったのか?ふぁ~随分短いんだな…」 「お前寝てたから時間なんてわかんねぇだろ♪♪」 「なんつーか、勘?」 「ハハ、馬鹿だこいつ♪♪♪」 ソールを軽く殴って起こした白虎は、いつも通りの笑いを浮かべて皮肉を言っていたが、ソールは笑っている顔とは裏腹に、考えていることは勿論違かった。 (最高魔法体得者に、四神人の風神……。帝国は、良い拾いものをしたようだな) ふと、す、と瞳を開けてみる。目の前には、再び口論を始めたらしき、元気そうに喋る二人。 もし、この世にその殺人能力を授からずに、生を受けることが許されていたのなら。 ふ、とソールは首を横に振る。 「……!!」 すると突如、リティシャが険しい顔つきで空を仰いだ。つられてソールも天空を見上げるが、風が若干強くなっただけで、夜空には微塵の変わりも無い。 しかし、リティシャは時が止まったかのように夜空を見つめている。そのとき、彼女はぽつリと呟いた。 「空が……怒ってる」 「え?」 そのあと、リティシャは唐突に白虎の方を見る。 「白虎、あなたも分かったでしょう?」 「ああ、まぁな。風が荒れてる。そろそろ一雨きそうだなぁ。急ごうぜ」 「ええ。そういうわけだから、ソールさん」 (確かに……今はわかんねえけど、オレの勘がそう言ってるな) リティシャが少し一礼して、一瞬のうちに欅の木の上へ跳んだ。白虎はリティシャをちらりと見つめて微笑み、白い鳥を撫でる。 それを見てか、ソールは思い出したように口を開けた。 「あ~そうだ、白虎、これ誰に届けりゃあいいんだ?」 「これか?あのな、アッシュ=ギターガイ…いや、アッシュ=ジークリードに渡してほしいんだ♪♪♪」 その言葉を聞き、ソールは驚いたように目をまん丸にした。勿論、自分の記憶に、その名の聞き覚えがあったからだ。 「アッシュ=ギターガイだって?それってあれだろ、人気バンドのヴォーカルじゃなかったか?」 「そう。それでいて、現在の我々帝国の、二人目の主要標的(メインターゲット)」 木の上のリティシャが、涼しげな顔でさらりと言ってのける。白虎もそういう事、と言って笑った。 メインターゲットとは、帝国からする危険人物、もしくは「抹殺命令が出た人物」としてのレッドデータに乗っている人物のことだ。ちなみに主要という部分は、一番のという意味である。 しかし、ソールにしては「二人目」という言葉はどうにもつっかかった。 「なぁ、二人目っつーたけど…もう一人って、誰だ?」 嫌な、予感がした。 白虎はあん?と首をかしげ、その後からふわりと髪を靡かせて表情を明るくさせる。 「あれだよ、今田舎村にいる サイキ=アルドピース!!あいつが確か、一番エヴリニトク様のお怒りになられてる原因だったはずだぜ♪♪♪」 サイキ=アルドピース。 ソールは、その名に聞き覚えがあった。 以前、自らのもとへ流れ着き、世話をしてやり、そして自らの元を離れていったキャラバン。 何故、あいつが? 「そーか。帝国に刃向かうなんて馬鹿な男だな、そいつ」 「俺っちもそう思う♪♪「エース」の逆鱗に触れたら最後♪♪闇から闇へと葬られちゃうもんなー」 「白虎。おしゃべりはそろそろ止めなさい。空が怒ってる。そろそろ退散したほうがよさそうよ」 「へいへーい」 リティシャにくぎを差され、白虎はにへと笑いながら気のない返事を返した。ソールもおう、と返事を返し、ローブをばさりと翻す。 そして再び白虎もくるりと後ろを向き、最後にこちらにふりかえって笑った。 「エヴリニトク様はな、おもちゃを集めるのが好きなワガママ子供なのさ。だから、今回は預かっていたお姫様の人形と、大事な大事な宝石を奪われたことでめちゃくちゃ癇癪起こしてんだよ」 「だからソールも、くれぐれもエヴリニトク様の「おもちゃ」奪わないように、気を付けるこった♪♪」 じゃあな、と笑って、白虎も一瞬のうちに木の枝に上り、そしてリティシャ共々夜の闇に消えていく。 ヒュウウウウ、と風がなり始め、やがて夜の空がどす黒い雲に覆われ、ぽつり、とソールの頭に水滴が落ちた。 「雨、か……」 白い鳥を自分のローブの中に入れて遣り、ソールは踵を返して歩き出す。 「そろそろオレも、関係無いって顔すんの、無理になってきたなぁ……」 空が、僅かな稲光を携えながら、北へ北へと動き始めていた。 『TO BE CONTINEUD♪♪♪俺っちの速さに、ついてこれっかな♪♪♪』 |
欅
2002年08月22日(木) 19時29分17秒 公開 ■この作品の著作権は欅さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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~-~)ぐは!たびたびすみません(汗)トークも魔術交錯も爽快かつテンポ良しで大満足でした! | 5点 | みかど | ■2002-08-25 13:10:11 | hdofi-01p4-171.ppp11.odn.ad.jp |
~-~)んがぁ!すみません、間違って一つ入れちゃった(汗)今回は一風変わった敵の登場ですね。戦闘シーンが中盤を占めてますが、魔法描写が面白い!「怪物の咆哮のようなうなり声をあげ、ずんずんと」てあたりが斬新。強大な魔法同士の激突はやはり見応え充分ですね。十配下や四神人の存在も気になる伏線ですね…次回も頑張って下さいね! | 1点 | みかど | ■2002-08-25 13:08:47 | hdofi-01p4-171.ppp11.odn.ad.jp |
~~ | 1点 | みかど | ■2002-08-25 13:04:09 | hdofi-01p4-171.ppp11.odn.ad.jp |
あはは~~んvてーかすごいなぁ~~うますぎ・・・・白虎君ーー!!面白すぎです!(笑)戦闘シーンとかわかりやすい上にめちゃくちゃ雰囲気伝わってきてすっごい素敵ですvんっじゃ次もがんばって♪ | 5点 | セリカ | ■2002-08-25 02:59:43 | pro2.incl.ne.jp |
くはは、、、;なんで欅チャンはそんなに上手いんでせぅ?最初の所からもぅ見ただけで眩しい;;でもそれがジタ君に見えてきたり…Vv(違/去りなさい)戦闘シーンとか頭に浮かぶんですよ姫ぇえ!!!!(尊敬の眼差し)てか師匠♪(切実)深いね、、、めちゃ深いよー欅の小説;置いていかれそう~;(ぃやとっくに置いてかれてるから)四葉、見つけたことあった!!球技大会の時にそこらへんの草引っ込ぬいたら大喜びVvでもポケットにしまったままで哀れ洗濯機でミンチ。(死)てなわけで(?)頑張れーv | 5点 | 水瀬 | ■2002-08-24 19:36:08 | n138.nc2.kct.ne.jp |
くわっこいい!!流石です!戦闘シーンとかすっごいかっこいい!!物語に引き込まれますね♪ソールさんがいいキャラして自分的には好きですvvそして魔法の詠唱とかああも素晴らしいモノが浮かぶなんてすごいです!帝国もなにやら難しいですねぇ・・・。もしや皇帝様がトランプ好き・・?(をぃ)次も楽しみにしてますね!ちなみに僕は四つ葉を見つけた事がありません(関係ない)グッビバイ! | 5点 | まぎ(元シゲ) | ■2002-08-23 19:45:19 | proxy1.uyasu1.kn.home.ne.jp |
我がキャラのラー・S・ソールだ~。そう言えば、名前の由来がすべて太陽を想定して出した人だったな(Sとは実はSunだったり)。冷静に考えたらラーが名前?(笑)戦闘シーンが上手で最高!!飽きないからいい!!私もこれぐらいあったら…(無理)皆速い速い~置いてかないで~(謎)次も是非、絶対読むよ~♪それじゃあ♪ | 5点 | 計都 | ■2002-08-22 22:19:59 | p033-dnb18sappo2.hokkaido.ocn.ne.jp |
感想メールも書きます!絶対長くなるから! ていうかレ○ノに似てるな~、って俺も思ったわ(笑)呪文の所は、クラ-○系?(殴)つーかX-TENTH採用してくれてどうもっス!!んでは!! | 5点 | 蓮麗 | ■2002-08-22 19:54:18 | i217161.ap.plala.or.jp |
合計 | 32点 |
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